雪氷研究大会(2014・八戸)企画セッションレポート

みなさま
おつかれさまです。
北海道大学大学院文学研究科の小西です。
先般ご案内しましたました、
雪かきボランティアに関するトークイベントのご報告です。
八戸にて雪氷研究大会という雪の研究者たちが集う学会(9/19-922)が開催されました。
学会中の企画イベントとして、下記一般市民が気軽に参加できるトークイベントを開催いたしました。
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「雪かきボランティアがもたらす地域社会イノベーション」
日時:2014年9月20日(土)15:30~17:00
場所:八戸工業大学
主催:日本雪工学会・日本雪氷学会会員有志
来場者:約40名

以下、発表者ごとのレポートです!!

①平野部での大雪降雪と市民活動~前橋市大雪たすけあいセンターの活動から~
 高山弘毅氏(前橋市社会福祉協議会)

今冬2月前橋市では、観測史上最高73㎝の積雪量を記録しました。
これまで経験したことのない大雪に、前橋市は大混乱。
雪かき道具はとたんに売り切れ、ちりとりやビアグラスで雪かきをする市民。
そこで、立ち上がったのが、「前橋大雪たすけあいセンター」。
「たまたま、まさか」の未曾有の大雪に、センターはいかに立ち向かったのか!?
そんな奮闘記がご報告されました。

雪かき道具もなく、雪かきのノウハウもなく、ないないづくしのセンターに、
豪雪地帯の社協仲間から続々と雪かき道具やノウハウが届きます。
豪雪地帯では当たり前のことは、無積雪地では未知のこと。
屋根からの落雪に注意しなくちゃいけないこと、スノーダンプをぐいっ!(みなさんわかりますね!)
っとするとすぐに壊れちゃうこと、雪はスノーダンプを走らせる道にもなること。。。。
それは、東日本大震災の復興作業で培った社協ネットワークがあったからこそのサポートでした。
ただ、それは、協定を通したネットワークではなく、「一緒に汗を掻いた仲」だからこそのネットワーク。

小西個人が脱帽したのは、情報発信の仕方!
SNSを多用した活動報告・切実な状況なのに、それを感じさせないかわいらしいチラシ。
高山さんは、先日の広島土砂災害においても情報発信分野でノウハウを提供されたとのこと。
災害で得た知見は、次の災害に引き継がれる様がリアルに伝わってきました。
それぞれの得意技を最大限に発揮する、そのための日頃の顔の見える関係の構築。
学ぶべきことの多い発表でした。

②レスキューの雪かきから,地域活動を支える黒子へ
 上島信一氏(北海道コカ・コーラボトリング 株式会社)

北海道コカ・コーラボトリング(株)は、札幌市清田区に工場をもつみなさんご存知の企業。
CSR(企業の社会的貢献)活動を推進する上島さんは、これまでの雪かきボランティアを通した実践を報告してくださいました。
8年前にはじまった清田区での雪かきボランティアは、当初は社員たちからはじまり、
地元の大学生と恊働しながら、規模を拡大していきました。しかし、彼らはふと気付く。

「自分たちが大学生を引っ張るのではなく、大学生を支えよう」と。
活動の主体を自分たちから他者に移すことで、「支えることの喜び」を実感していったそうです。
それは、企業の存在理由を実感することでもありました。
社会に必要とされることは、企業が人びとから必要とされること。
それは、企業として成り立っていくこと。

そして今、この気付きをシェアするため、炭鉱街三笠市で道内企業と恊働し、
広域的雪かきボランティアを展開するようにもなりました。
ここでも、道内企業の連携を支える黒子の姿勢は健在でした。
このような気付きと行動を通して、社会全体における自身を位置付けていく社員たちの変化を喜ぶ上島さん。
「俺たちが変わったんだ」という自信は、今冬も雪かきバスを走らせることでしょう。

我々実践者は、企業の組織力を上手に取り入れ、お互いが成長できるパートナーシップを築いていくことを
念頭に置かないといけないと改めて考えさせられました。

③「結」の精神でつかむ地域力
 二藤部久三氏(尾花沢市除雪ボランティア センター/尾花沢市民雪研究会)

広域的な雪かきボランティアの受け入れにより、「受援力」を身につけていく過程とその実践がご報告されました。
受援力は、受け入れる力。それは、地域の力。
何回にも渡る雪かきボランティアの受け入れは、街をどんどん成長させていきます。
大学生・企業の人びと・くまもん。。。
いろんな人(ぬいぐるみも)が街に来てくれるようになりました。
それは、「結」を思い出させてくれるきっかけでもありました。

「くまもんを熊本から連れてくるのに、2ヶ月かかった」と胸を張る二藤部さん。
大人気のゆるキャラがやってくることで、街に活気が生まれる。しかも、それが日常の徒労である雪かきで。
ネガティブを逆手にとった大逆転劇!
「次はふなっしーを呼びたい」と意気込む二藤部さんでした。

実践者が自ら楽しむこと、それが、新しい価値観や実践を生み出すことを痛感したご発表でした。

④よそからの雪かきボランティアが地域内共助を促進する可能性
 中前千佳氏(一般社団法人北海道 開発技術センター)

札幌からやってきた「よそ者」が、受け入れ地域に何をもたらしたのか?
倶知安町は、道内でも有数の豪雪地帯。
そんな街では、琴和町内会で「ちょボラ除雪隊」が地域内共助の担い手として、奮闘しておりました。
この「ちょボラ除雪隊」のサポーターとして札幌市民が雪かきボランティアをしたのは、2013年。

その後、倶知安町では、町長を中心に、この「ちょボラ除雪隊」を他町内会でも導入するよう働きかけます。
そして、2014年再び倶知安に向かった「よそ者」の受け入れ地域となったのは、「六郷ちょボラ除雪隊」でした。
雪かきボランティアという「よそ者」を受け入れたことがきっかけで、共助の輪が広がりました。
外部からの刺激が内部のイノベーションを誘発するという事例と言えますね!

⑤「次,来るときまでしっかり話し合っておく」~「よそ者」の介入により目ざめる受援力~
 小西信義氏(北海道大学)

舞台は、倶知安から岩見沢市美流渡地区。
炭鉱街として栄えた美流渡地区は、閉山後急激な人口減をもたらし、現在500人程度で高齢者率も52%の街となりました。
札幌からの「よそ者」は、功罪含めさまざまなものを美流渡にもたらしました。
札幌市民を受け入れることで、美流渡町内会はいろいろな課題に直面します。
雪かき対象世帯をいかに決めるのか?安全管理はどのようにしたらいいのか?
その課題は、「受入疲れ」をもたらし、彼らは再びみんなで話し合うことを欲する段階となってきました。

受け入れることは疲れる。でも、来年も雪は降ってくる。
そんな板挟みの中、きっと美流渡の人びとは話し合うこと、納得し合えることを目指すのでしょう。
それは、きっと街の力、受援力につながるでしょう。
まだまだ美流渡は成長します。

「よそ者」に対して、閉鎖的であること、変化を臨まないことはきっとあると思います。
しかし、そこをしっかり向き合っていくことで次のステージがあると僕は思います。

⑥ヤクタタズがもたらした地域の変化
 上村靖司氏(長岡技術科学大学)

平成18年豪雪をきっかけとしてはじまった越後雪かき道場は、活動の使命を変化させていきました。
雪かきボランティアの育成から地域社会イノベーションへ。
そして、雪かき道場の変化と呼応し、地域社会も変化していきます。

雪かき人夫としての「機能」は、
寄り添ってくれる「存在」へ

と雪かきボランティアたちへの視線は変わっていきます。
役所依存による地域課題解決しかなかった地域は受け入れを経て、
自分たちの課題を自分たち事として受け止め、身の回りのリソースを最大限活用する。それが自立と自律。
それはまさしく地域社会のイノベーション。

ヤクタタズと思っていたボランティアたちが、
実は、自分たちを活気づけ、自分たちを認めてくれる存在だったことに気付いたわけです。
もちろんそれは、雪かきボランティアにも言えることです。
そんなやりとりが雪かきによって生じ、それがイノベーションの種となるのです。

上村先生は、イノベーションを以下のように定義しました。
「昨日のあり得ないことを、明日の当たり前に変えること。」

8年間の道場参加者のアンケートを分析すると、「楽しい」という単語を中心に、
いろんな感想が関連付けられているようです。
参加者が「楽しい!」と思えること、それが、雪かきの魅力であり、
イノベーションを加速させる根本的な動機と言えるのかもしれません。
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多士済々の論客によって、雪かきがもたらす地域社会イノベーションが指摘されました。
来年もこのような場でみなさんのイノベーションを拝聴したいものです。 

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